私とホストと人生と

自慢ではないが、齢30も過ぎてシステムエンジニアとしてサラリーマンをやりながら歌舞伎町でホストをやっていた事がある。(本当に自慢にならない)

おおよそホストには向きそうもない、低身長、不細工、短小、包茎、ついこの間スーパーでお酒を買おうとしたら年齢確認されて財布(免許証)を持っていなかったため買えなかった童顔が、だ。

ちなみに夜の世界にコネもツテも無ければエンもユカリも無い。

背中に菊を背負って愛人を囲うヤクザ紛いの社長の下で働いていた事はあるが、それはかろうじて昼の仕事だし無関係だ。

裸一貫、見知らぬ歌舞伎町という「国」に飛び込んだ。

ホストの話なんて誰も求めてはいないと思うのだが、ひょんな事から「静かなるドン」という古い漫画を読んで夜の世界の事を思い出したので、折角だから書いてみようと思う。

私はホストという仕事から多くの事を学んだ。

読んでくれた方の心に何か一つ引っかかればこれ幸いである。

目次

ホストというおしごと

ホストには誰でもなれる。

イケメンである必要は無い。

メイクをするし店内は薄暗いから私のような不細工でもかろうじて勤まる。

お酒は……まぁ飲めるに越した事は無いが、下戸のホストというのもいるにはいる。

そもそも未成年も働いている。(合法)

このご時世、ホストとは言え未成年にお酒を飲ませる事なんて出来ない。

ホストの仕事はお客様を感動させる事が全てだ。

ルックスで感動させてもいい、トークで感動させてもいい、酒の強さで感動させてもいい、雰囲気で感動させてもいい、もちろんセックスで感動させるのもいいだろう。

「感情を動かす」のが感動だ。

喜ばせるだけではなく、怒らせ、哀しませ、楽しませる。

そうして親密になっていくのだ。

営業前には毎日徹底的に店内を掃除し、幹部がテーブルの裏の埃まで小姑のようにチェックをする。

少しでも汚れていれば怒号。

営業中にも欠かさずトイレを綺麗にし鏡を拭く。

飲めと言われれば飲む、歌えと言われれば歌う、踊れと言われれば踊る、脱げと言われれば脱ぐ。まぁこれは感動させるために必要であれば、だが。

営業が終わればアフターがあればアフター、無ければミーティングにコールの練習。

帰宅は3時や4時だ。

全てはお客様の感動のために。

ホストのシステム

ホストの世界は売り上げで上下が決まる。

そこでは年齢というものは何の意味も持たない。

私も上京して来たという18歳の子と同期になった。

相手はタメ口だ。

一回り以上離れているのに臆面もなくタメ口。

私は気にしなかったが、なかなか面白い世界である。

ではどのようにその売り上げが決まるのか。

まずホストクラブというのは、初めて来店されたお客様は誰でも基本的に「初回」と呼ばれる対応になる。

初回来店したお客様は、2,000円やそこらで1時間以上飲み放題だ。

ホストクラブの全ホストが短時間ずつ初回のお客様に付く。

その短い時間でお客様を感動させ、短時間で連絡先を聞く。

連絡先を聞けたホストは、後日営業をかける。

そして再来店していただき指名を貰ったら晴れて「担当」となり、以降そのお客様の使ったお金が「売上」として成績になる。

初対面の10分そこらで連絡先を聞き、再来店していただき、指名を貰って初めて売上となるのである。

初回は激安だが再来店時はそれはもう高い。

350mlの発泡酒やチューハイが1本1,000円以上だ。

それをホストも飲む。

350ml缶なんて一瞬で空になる。

次は何を飲む?シャンパンでも開けようか?ウン十万円だ。

キャバクラなんて目ではない世界だ。

ちなみに所属していた店舗のトッププレイヤーは月の売り上げが1,000万円を優に超えていた。

一月で1,000万円以上使っていただいたのだ。

指名の無いホストは何をするのか。

指名のあるホストに同席し会話を盛り上げ、酒を飲むのである。

指名があるというのは絶対だ。

担当ホストが酔い潰れてしまわないよう、指名の無いホストが率先して酒を飲む。

ホストの世界は売り上げで上下が決まる。

ラスソンというシステムがある。

ラストソングの略だ。

その日、一番売り上げたホストが閉店間際にカラオケを歌う。

売り上げがあるという事は、指名のお客様がいるという事だ。

そのお客様が一番お金を使ってくれたという事だ。

そのお客様のために歌う。

私も2回ほど歌わせていただいた事がある。

Acid Brack Cherryの「愛してない」とラルクの「Flower」を。

おっさん丸出し。

余談だが妻を初回に招待した事もある。

もちろん私の妻だという事はお店に隠して。

ウブで真面目な妻とは無縁の世界だが、これはこれで社会勉強になったのではないだろうか。

皆様も機会があれば是非。

初回だけで連絡先を交換しなければ何も怖い事は無い。

そういったお客様はゴマンといる。

ホスト側も再来店しないからといって気にも留めない。

ホストの日常

昼に起床。

夕方にはお抱えの美容院で髪をセットしてもらいメイクをして出勤。

清掃、声出し。

開店したら仕事をしながら連絡先を知っているお客様に営業。

閉店後はアフターをする者はお客様とセックスをし、先輩と飯に行く者もいれば、キャバクラに営業に行く者もいる。

当然ホストクラブのお客様は夜の仕事をしている方がほとんどだ。

キャバクラは戦場である。

そこに下心など微塵も無い。

私はサラリーマンと二足の草鞋だった。

3時に寮に帰り6時には起床してサラリーマンをして、19時からホスト、3時に寮に帰り6時には起床してサラリーマン。

こんな生活を1年以上していた。

貴方の価値を決めるのは貴方ではない

一本1,000円の缶チューハイを頼んでいただく。

一本ウン十万円というシャンパンを頼んでいただく。

ごくごく普通の神経を持った人間だったら耐えられないであろう。

私もそうだった。

私のような人間にそんな大金を使ってもらうなんて申し訳ない、と。

だがそれは違う。

私は一度、別のホストの生誕祭でシャンパンタワーを立てると言ったお客様にこう言った事がある。

「何百万円もしますよ。そんな事しなくても彼は貴女がお店に通ってくれるだけで幸せですよ」と。

そのお客様は昼の仕事をしている、ごく普通の方だった。

私もお世話になっていたし、そんな大金を使わせる事に気が引けたのだ。

しかしその方は「彼が喜んでくれるならそれでいい」と笑った。

まさにマンガのような話だが実話だ。

人は誰しも多かれ少なかれ劣等感を持っている。

自分に絶対の自信がある人間なんて限られているだろう。

それでも誰かを幸せに出来るのであれば、誰かの力になれるのであれば、一瞬でも安らぎを与えられているのであれば、それは誇るべき事だ。

貴方の価値を決めるのは貴方ではない。相手だ。

胸を張っていい。

人生は自分が行動しないと変わらない

人生何事も経験。

人生挑戦してなんぼ。

人生一度切り。

ゲームの主人公じゃないのですから、向こうからイベントはやってきません。

ホストをやれと言っているわけではありません。

いやまぁタダ酒飲めるホストはオススメですが。(ここがオチです)

これを読んだ方がほんの少しでも、今より更に実りある人生を歩めたらと思います。

お互い楽しみましょうね。

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